MoGに参加した高校生や先生のリアルな声・現地で活動中の
MoGの様子・very50の活動などをお届けします。

「この現場で、自分にしか伝えられないことがある」社会人フェローシップで見えた今まで積み上げてきた経験

Ryoh Sugitani
将来的に国際協力の仕事に携わりたいと思いながら、高校生、大学生時代に募金活動、インターンシップなどを経験。東京大学2年生時にさらなる経験を探していたところ出会ったvery50のMoGでタイの企業を訪問。そこからソーシャルビジネスへの興味を深め、大学院卒業後は新卒でマザーハウスに就職。店舗運営、現地生産管理、商品開発を経験した。

 

■MoGにフェローとして参加しようと思ったきっかけ
 MoGに参加したのは、大学2年生の時でしたが、その当時インターンとして一緒に参加していた副代表の谷弘さんとは定期的にご飯などに行ったり、very50のイベントに顔を出したりという状況でした。その中で社会人フェローというのがあるという話は聞いており、MoG自体が自分の人生に与えた影響も大きかったこともあり、興味を持ったのが最初のきっかけです。

ただ、普段の仕事もあり、まだまだ大きな組織ではなかったので10日間ほどの長期休暇というのが一番のネックだと感じていました。そんな中、個人的な問題ではあるのですが精神疾患を患い、休職するかどうかという話になっていました。外で人に会っているのが唯一気分が紛れる状況だったので、常にFacebookなどでイベントを探していたのですが、偶然にもvery50がアルムナイ向けのイベントをやっていたので参加し、そこからとんとん拍子に社会人フェロー参加の話が進んでいきました。

休職を決めた数日後には代表の菅谷さんから、「この夏にカンボジアでMoGがあるんだけど、高校生たちと触れ合うことで気分も晴れると思うし、実際の途上国の現場で、自分の思いの原点を振り返って気持ちも新たに出来るのでは?」と言ってもらい、決心がつき急遽でしたが、社会人フェローを引き受けることになりました。

正直、自分の精神状態も不安定な中で大丈夫かなと感じていましたが、そこは谷弘さん含め、多くのスタッフの方々がサポートしますと言ってもらえたので、自分自身のやってみたいを優先させることにしました。

画像1

2014年のタイMoGに参加していたことがvery50との出会いのきっかけ

■渡航までの事前準備
 正直、ここが今回の社会人フェローをやる上で、一番大変でした。現在は計画的にスケジュールを立てて、フェローの方に生徒や起業家とのコミュニケーションをお願いしていると思うのですが、自分の場合はプロジェクト開始の1週間前に社会人フェローとしての参加が決まるという状況。自分自身が大変だったのはもちろんですが、周りのスタッフの方も大変だったと思います。

そのため、ここは正直に言ってしまうと何もやっていなかったというのが正しいのですが、少なくとも生徒さんたちの空気感や、今回のプロジェクトのゴールは理解しておこうとスタッフへの聞き取りをしたり、他には自分がMoGに参加した時のマーケテイングのフレームワークなどをMoGの時のノートを探してきて復習しなおしていました。(結果、very50の教材開発がすごい進化しており、古い知識になっていましたが笑)

そこまでやっても当然ですが全く不安感は拭えず、カンボジアに向かう飛行機の中ではひたすらこういう風な方向性がおそらく良いんだろうな、生徒たちが納得感を持ってもらうためにはこう伝えるべきだななどなど、脳内シミュレーションを何回も繰り返していました。笑

■現地に行ってから
・いよいよプロジェクト開始
現地に入ってからはまず、生徒の顔と名前を一致させること(当たり前すぎますが)と、どんな特徴を持っているのかを把握することが急務でした。名前を覚えるのは、接客業の経験があったのですんなり覚えられましたが、高校生という多感な時期の子達の特徴を把握するのはとても苦労しました。

大人の前ではなかなか本当の自分を見せられない子や、派閥の存在など高校生らしいと言えばそれまでなのですが、プロジェクトを前に進めていくためにはそのような細やかな部分まで把握しながら、それらを上手くプロジェクト推進力に変わるようにファシリテーションをしなければと思っていたので、立ち回りにはかなり気を遣いました。(正直気を遣いすぎた気もします。笑)

今回、自分はプロジェクトが始まる前にこれだけは曲げたくないと決心したことは、「起業家への貢献」と「生徒たちの人生のきっかけになる経験」のどちらも妥協しないということでした。自分が参加したMoGは大学生・社会人チームだったため、ビジネス提案としての良いものを追求することが、自分たちの成長にもなると考えやすいのですが、高校生のMoGは、より教育プログラムとしての色が強いため生徒たちの学び>起業家への貢献となりやすいのではと考えていました。だからこそ、せっかく参加するのであればそれを乗り越えてみたいと思っていたのです。

画像2

地元の方と交流する高校生
こういう機会を大事にしたいなと感じた瞬間

 初日~2日目は、生徒たちの様子をうかがいながらプロジェクトを進めていましたが、チーム全体にどうせ誰かがやってくれるという雰囲気が出ているように感じていました。そんな中、3日目にミーティングでやり切ろうと決めたことをあるグループがほとんど理解できておらず、的外れなことをしてしまうという事件が発生しました。ミーティングで理解できていないことを「わからない」と言えなかったり、他のグループのことだから関係ないという姿勢が招いたミスコミュニケーションでした。

そこまでは基本的に見守りながら、サポートをするという姿勢でしたが、この時初めて生徒たちに厳しく叱責することにしました。「このMoGは、もちろんみんなの学びのためにあるけれども、みんなの成果は起業家の方のためなんだよね。今のみんなの姿勢は、起業家の方のためよりも、自分たちのプライドだったりなれ合いだったり、全く外向きの姿勢になっていないよね。そんな状況だったらきっとあと8日間プロジェクトをやっても、楽しかったねという修学旅行みたいな雰囲気で終わっちゃうよ。

生徒たちからしたらびっくりしたかもしれませんが、自分がこのMoGで大事にしたかった生徒たちの学びと起業家への貢献の両立のためには、必要な行動だったと思います。

タイミング良く、次の日はスラム地域の見学でした。このスラムを見て、生徒たちが自分たちが頑張るのは起業家のため、そしてその先にいるスラム地域の人のためと感じてもらえたら良いなと考えていました。また、自分自身が途上国で最も衝撃を受けた光景を、高校生という時期に体感して、どんなことを思うのだろうというのも気になっていました。

画像3

スラム地域で未亡人のお母さんから話を聞いている様子

 スラム見学では、実際にそこに住む方からの話も聞きました。カンボジアはポルポト政権下による大量虐殺が起きた国です。生徒たちもそのことを事前に調べて、自分たちがこのプロジェクトをやる意義や使命感というものを感じていましたが、それをはるかに超える強烈な体験談を未亡人のお母さんは語ってくださいました。

この未亡人のお母さんはポルポト政権下で家族や夫を失い、命からがらこの地域に逃れてきた方でした。その当時の様子はクメール語-英語の翻訳でおそらく臨場感が失われてしまっているのでしょうが、それでもなお当時の凄惨さと過酷さ、生きながらえてからも続く苦しい生活の生々しさを感じました。英語が苦手な生徒も多かったので、通訳で様子を伝えましたが、生徒たちもお母さんの声調の変化や表情から感じ取ったのか、いつも以上に真剣な顔で話を聞いていました。

そんな衝撃的な体験に出会い、街に戻ってからの生徒たちの顔つきはガラッと変わり、「使命感にとりつかれた」という表現がぴったりなほど前のめりにプロジェクトを推進するようになりました。そうなるとまだ前半ということもあるので、今度は逆に頑張りすぎるのを抑制して長続きさせることが重要になると思い、意図的に休憩時間を長く取ったり、睡眠時間のカットが作業効率の低下を招くという話をして半強制的に寝かせたりという工夫をしました。

その場では生徒たちは納得してくれていましたが、表面的にみると言っていることが日によって反転しているので、事後アンケートに「ちゃんと理解しないと天邪鬼な人」と書かれてしまったのは反省すべき点でした。笑 生徒たちのパフォーマンスを上げること、起業家に貢献することに夢中になりすぎて、自分がどう見えているかという視点が欠落してしまった結果と反省しています。ただ、そこまでに生徒たちとの信頼関係を築けていたからこそ、「ちゃんと理解」してもらえたのだと安心しました。

・毎晩の内省セッション
MoGでは毎晩、その日の挑戦を振り返ったり、自分自身がMoGを通して達成したい目標に近付いているか自己内省をする時間を大学生メンター中心に取っています。その一環で行われる「Life Map」という今までの人生を振り返って感情が大きく動いた部分を紹介する自己開示とチームビルディングを兼ねたセッションがあります。

個人的にはこのセッションの話を聞くのがとても楽しかったです。生徒たち1人1人の理解につながるというのはもちろんですが、自分が中学生・高校生の時は何を考えていたかなと振り返りながら、その当時どんな言葉に影響を受けたかなどを考えるきっかけになり、自分の内省としても価値がありました。

この「Life Map」は社会人フェローも発表するのですが、生徒たちのを聞いていた分(+人生が長いせいもありますが)、中高生時代の時に自分が感じていたことのパートが長くなりすぎて、10分くらいで話すところを大きく超過して30分ほど話していました。笑 ただその中で、生徒たちが共通点を見つけてくれたり、身近に感じてもらえる部分があったのか、この「Life Map」以後、生徒たちとの精神的な距離がぐっと縮まったように感じました。

画像4

起業家との英語でのコミュニケーション
内省シートには頑張りたいという気持ちと出来なかった  という悔しさが生々しく書かれていました

・生徒の心の炎を大切にする
プロジェクト中盤になってくると、生徒たちのプロジェクトにかける熱量も高くなり、序盤のようにモチベートしていく役割から、見守る役割が大きくなってきます。生徒たちが考えたアイディアの壁打ち相手になったり、起業家とのコミュニケーションのサポートをしたりと、どちらかというと生徒たちに使われるイメージですね。笑

ただ、生徒たちの自主性に任せると、それはそれで大変なことも起きてきます。今回のプロジェクトでは1人の生徒が絶対にやりたいという思いを持っていた方向性があったのですが、チーム全体のミーティングでその方向性はクローズするということになってしまいました。その場では全員が納得をしていたのですが、明らかにその生徒の顔が輝いていない様子だったので、思い切って1on1という形で2人で話すことにしました。

チーム全体のミーティングでは納得していると言っていたものの、2人きりの場では、どうしてもやりたかったという思いを語ってくれました。その強い思いを活かして欲しいという思いもあり、2人でどうやってチーム全体の流れに沿う形でやりたかった方向性が出来るかという作戦会議をしました。チームの方向性と真逆になる方向性の施策という印象があり、チーム全体から受け入れられなかったという現状の整理をした上で、チームの方向性にどうプラスになるのかを推していこうということでアイディアを話してもらいました。自分の方からいくつかアイディアを出そうかとも思っていたのですが、視点が変わったことで活路が開けたのか、その生徒から溢れるほどアイディアが出てきたのが印象的でした。ほとんど話を聞きながら、ちょこっと整理をしてあげるだけという感じになっていました。笑

結果、チームのみんなにも受け入れてもらえ、その生徒はその後バリバリと施策を進めてくれました。この体験を通して、中盤以後は見守る形になることが多いからこそ、生徒の様子をよく観察し、迷いや悩みをを察知して個人ベースで介入していくことが大事だなと気付くことが出来ました。そこからは生徒たちが心の炎を燃やせるように、迷いが生じている部分を見定めて1on1やグループでのディスカッションに入って整理をしてあげるということを意識的にしていきました。

画像1

生徒たちの希望で再度スラム地域を訪問

・最終プレゼンテーション
プロジェクト終盤の最終プレゼンテーション作りは今回のチームが苦戦したことの1つでした。パワポなどをあまり利用したことがないことや、英語が苦手ということで、発表そのものに自信が持てないというのが一番大きい課題でした。

そこまでの施策のアイディアや実行からわかった発見などはとても素晴らしいものだったのですが、プレゼンテーションで起業家に伝えられなければ意味がありません。プレゼンテーションの大事さを伝えたものの、生徒たちの苦手意識は払拭できず、正直発表は本当にひどいレベルのものになってしまいました。

このとき自分はどちらかというと見守るスタンスを貫いてしまったのですが、他のチームのフェローの方の中には、大学生のアシスタントと一緒に生徒の発表資料をハンズオンで手伝っている方もおり、そういうやり方もあるのかと勉強になりました。発表という1つの生徒たちの成果の集大成の場で失敗することで学びにつなげてもらうことも重要ですが、今回のチームの場合は最終プレゼンでの失敗を通して、プレゼンに対する生徒たちの苦手意識を強めてしまったなと反省しています。ここでハンズオンと言えども、小さな成功体験を積ませてあげることが、今後の生徒たちのためにもなったなと思っています。

生徒活動5

生徒たちのプレゼンテーションの様子

・最後に伝えたメッセージ
発表自体が失敗だったという悔しさもあったと思いますが、プロジェクトの重圧から解放された生徒たちは全員が泣いていました。特に現地での10日間は張り詰めた空気感の中で、「起業家のため」「スラムの人たちのため」という思いの強さで何とか走ってこれていた状況だと思うので、その達成感は今まで経験したことがないものだったのではと感じました。

自分自身も自分が参加したMoGの時以上に、達成感と解放感を感じていました。どっと疲れが来るとはこのことかと思うほど、身体的にも脳みそ的にも疲労感が押し寄せてきましたが、最終日に生徒たちに渡すメッセージカードには不思議なほどやる気が湧いてきて、気付けば深夜3時ほどまで書いていました。1人1人の成長した部分、そして伸びしろだと感じている部分、他にもオリジナリティだと感じた部分など、みんなと出会って10日間しか経っていないということを忘れてしまうほど、本当に伝えたいメッセージが溢れてきました。

最終日は生徒たちはアンコールワットの観光に行くので、自分はメッセージカードの続きと、最後に全員の前で話すことを考えていました。伝えたいことは1時間話しても足りないくらい溢れてきて、結局まとまらないまま生徒たちが帰ってきて、最後のクロージングミーティングの時間になってしまいました。

メッセージカードを1人1人に渡し終えて、最後の挨拶になったのですが正直まだ全然話がまとまっておらず、焦りまくっていました。笑 ただ、話し始めるとびっくりするほど1つのことを伝えたいという思いが強くなりました。それは「自分も悩んでいて、苦しんでいる人」だということでした。フェローとして生徒たちの前にいると、プロジェクトのことや生徒の成長のことを考えて大人として接することが多くなっていましたが、今回このフェローに参加するきっかけになった自分の休職や精神疾患のことを思い返すと、自分自身もみんなと同じように将来が不安で今まさに悩んでいて、人間関係で苦しくなったりしているということを知ってほしいなと思ったのです。

プロジェクトの中で自分の思い通りにいかないことに不満を感じたり、人間関係で苦しくなったりという経験をしている生徒たちに自分は大人としてアドバイスをしてきたけど、自分も同じように悩んでいる仲間であり、いくつになってもそういう悩みで苦しんだりするんだよというメッセージが気付いたら口から出ていました。そして最後に、そうやって少しずつ強くなっていくから、悩むことにはちゃんと意味があるんだよと半ば自分に言い聞かせるような形で伝えました。チーム全員、自分も含めて最後は涙が止まらない異様な状況でしたが、「この現場で、自分にしか伝えられないこと」はこれだったなと納得感も強かったです。

生徒集合写真2

発表後に全チームでの写真

■帰国後、MoGを振り返って思うこと
生徒たちを様々な面でのサポートをしてきましたが、何よりも自分の今の状態に対する納得感が強まった経験だったなと感じました。高校生を前にして大人としての自分と、1人の人間としての自分、どちらの自分とも本気で向き合った10日間でした。

大人として社会人としての自分としては、以前参加したMoGの経験も踏まえて、プロジェクトの成果と生徒の成長という2つをどうやって達成していくかという挑戦の中で、大学時代のマネジメント経験や社会人になってからの小売りの経験、人と向き合ってきた経験など積み上げてきたものを実感できました。

1人の人間としての自分としては、やはり最後に高校生に何を伝えるべきかと考える中で、参加のきっかけになった精神疾患の経験や今まで様々な物事を自分で決めてきたからこそ、知らぬ間にたくさん悩んできた経験が今の自分を作っているなと再認識することが出来ました。

フェローシップは確かにマネジメントスキルを中心に自己成長の機会になったと思いますが、何よりも高校生や起業家と本気で向き合う中で、実は自分自身とも本気で向き合わされていて、多くのことを自分の中で再発見できた経験だったと振り返って感じています。

■フェローを考えている人へ一言
 期間の制約や、不安要素も多いプログラムですが、ぜひ参加してみてほしいと思っています。自分は今回のプロジェクトで今までの経験の積み上げを再認識することが出来ましたが、きっと違う立場や状況の人が参加したら他のことを学べるんじゃないかなと思っています。

MoGというもの自体が、本当に様々な要素が交わりあっていて、何が起こるかわからない真の「なまもの」なので、これに参加したら必ずこういうものが得られるということが示しにくいものだと感じています。ただ、何が学べるか明確になっているセミナーや人材育成プログラムよりも、圧倒的にリアルな現場で、本気でぶつかってくる高校生を目の前に起業家のために貢献するという本物の経験から学べることは絶対に大きいと思います。

これは個人的な意見ですが、社会はどんどん不安定になっていくと思います。企業や組織といった今まで守ってくれていたものが、守り切れなくなる時代の足音がもう既に聞こえているように感じます。そんな時代の中では、形の決まりきった「スキル」よりも、不安定の中に飛び込んで自分で「学びを見つけて成長する」ことが大事になるんじゃないかと思っています。

そんな不安定の中に飛び込める機会というのは、今の日本の社会の中では起業やベンチャーへの転職くらいだと思います。だからこそ、今の仕事を継続した状態で不安定に飛び込めるフェローシップ制度は、本当に貴重な機会だと思います。途上国での活動や教育にチャレンジしたい、自己成長したいという思いをきっかけに、多くの人にこの不安定に飛び込んで欲しいです。

画像4

この体験がきっかけに帰国後very50への転職を決意
大学生向けのプログラム開発を中心に人材育成に従事